2025年冬号 純粋持株会社に対する税務上の居住者要件の強化(シンガポール)


BDO Asia - ジャパンデスクニュースレター 2025年冬号

 

1.概要

外国企業に所有されたいわゆる純粋持株会社が、2025年1月1日以降にシンガポール税務当局(IRAS)に対し、居住者証明書発行の申請を行う場合、当該居住者要件がより厳格になっています。

2.シンガポール所得税法における居住者について

シンガポール所得税法上、法人の税務上の居住性は、「事業の管理支配がどこで行われているか(Where the business is controlled and managed)」で判断され、当該管理支配がシンガポール国内で行われている会社は、税務上の居住者として取り扱われます。

事業の管理支配とは、経営判断を指すことが一般的であり、具体的には取締役会がシンガポール国内で行われているかなど、いくつかIRASが提示する例に基づき実態判断とされています。

3.税務上の居住法人のメリット

税務上の居住法人となる法人は、多くの税制優遇を受けることが可能であり、租税条約に基づく源泉税の減免等や、一定の国外源泉所得に対する免除規定の適用等があります。特に租税条約に基づく税制優遇を受けるにあたり、国外の税務当局に対し、IRASの発行した居住者証明書の提出が必要となる場合があることから、海外企業から配当や利子の受取り等がある企業にとって、税務上のメリットを最大限にするためには、当該居住者証明書の入手が非常に重要となります。

4.外国企業に所有された投資資産保有会社の居住性

上記2.に関わらず、外国企業もしくは国外居住の個人に株式の50%以上を保有されている投資資産保有会社で、受動的所得(配当、利子、株式の譲渡等により得られる所得)のみ、もしくは国外源泉所得のみを受け取るような投資資産保有会社(いわゆる外国企業に所有された純粋持株会社)については、通常、税務上の居住法人として取り扱われません。

これは、このような会社の場合、通常、国外株主からの指示に基づき活動するものとみなされるためです。

但し、このような会社であったとしても、以下のいずれの要件も満たす場合は、シンガポール居住法人と取り扱われる場合があります。

(1) 当該会社の事業に係る管理支配がシンガポール国内で行われている。

(2) シンガポール国内に当該会社を設立することに合理的な理由を有する。合理的な理由を有するとされるには、以下のいずれかに該当する必要がある。

  • シンガポール居住法人、もしくはシンガポール国内で事業を行っている関連会社がいる。
  • シンガポール国内の関連会社から、経営支援やサービスを受けている。
  • 名義取締役ではなく、実際に職務を遂行する取締役が最低1名、シンガポール国内に所在している。
  • CEO, CFO, COOといった重要な従業員が最低1名、シンガポール国内に所在している。


5.純粋持株会社に対する居住者要件の改正内容

2025年1月1日以降、外国企業に所有された投資資産保有会社が、IRASより居住者証明書の発行を受けるための要件として、上記4.(2) の要件が改正されており、具体的には以下の通りとなります。これにより、純粋持株会社に対する居住法人の要件がより厳格化されています。
 
2024年12月31日以前 2024年1月1日以降

 以下のいずれかに該当する。
  • シンガポール居住法人、もしくはシンガポール国内で事業を行っている関連会社がある。

  • シンガポール国内の関連会社から、経営支援やサービスを受けている。

  • 名義取締役ではなく、実際に職務を遂行する取締役が最低1名、シンガポール国内に所在している。

  • CEO, CFO, COOといった重要な従業員が最低1名、シンガポール国内に所在している。

 
 以下のいずれかに該当する。
  • シンガポール居住法人である関連会社に管理されている。つまりは、当該関連会社により投資資産保有会社の事業に関する意思決定が行われる、もしくは投資事業のパフォーマンスが評価されている。

  • 名義取締役ではなく、実際に職務を遂行する取締役が最低1名、シンガポール国内に所在している。

  • CEO, CFO, COOといった重要な従業員が最低1名、シンガポール国内に所在している。

 

BDO シンガポール 森田 陽平 yoheimorita@bdo.com.sg